ぎをん齋藤
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齊藤康二

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京都東山の祇園一角に店を構えて170年余り、
呉服の専門店として自社で制作した独自の
染物・織物をこの弊店で販売しています。
ぎをん齋藤の日常からこだわりの”もの作り”まで、
弊社の魅力を余すことなくお伝えしていきます。
皆様からのお問い合わせ、ご質問などお待ちしております。

◆お問い合わせ
ぎをん齋藤 齊藤康二
TEL:075-561-1207
(Mail) gion.saitokoji0517@gmail.com

職人の引退

今朝、2019年度叙勲の内容が発表されたニュースを見た。

その中で紫綬褒章の発表もあり、決定者のコメントや記者会見などが報道され、

一同に謙虚と自信に満ち溢れたお顔をされていた印象を受けた。

そして今朝、ぎをん齋藤では約30年もの間、刺繍の職人として

携わっていただいた御歳83歳の素晴らしい”職人さん”が引退される

ということで、暫らくぶりにご挨拶にいってきた。

その方はいわゆる昔ながらの職人気質で、強面、自分の腕一本で

今まで家族も養ってこられ、この世界ではベテラン中のベテラン、

一種のオーラ、近寄りがたい空気も漂っているような方ではあるが、

一度打ち解けると話好き、かわいい笑顔でほほ笑んでくれるのである。

その方から先日(14日前)に引退をすると通達があった。

私の心情は”長い間お疲れ様でした!”と感謝の気持ちと同時に、

一人の貴重な人材(伝統)がこの世界から消えていくというなんとも

言えない、残酷な時間の流れというものも感じた。

今朝の叙勲の話だが、名前こそ世間にはでない無名な一職人ではあるが、長い人生

コツコツと台(刺繍をする机のようなもの)と向き合い、地味で誰にもその技量を

自慢することなくいつも自分と台に向き合い、他には真似のできないすばらしい

刺繍をされてこられたこの職人も十二分、紫綬褒章に値すると心から思う。

その方からするとそんなものいりません!とおっしゃるに違いないが、

その功績はやはり称えるにふさわしい、崇高なものである!と言いたい。

今朝、お会いしにいくと1人静かに新聞を読んでおられ、この歳まで仕事ができたことが

何よりの喜びであり、感謝しています。といつもの笑顔でおっしゃっていた。

ご本人はいたって元気でいるが、何処か寂しさが漂い一つの灯火が誰からも

称えられることなく、静かに消えていくのを身をもって感じた貴重な時間であった。