ぎをん齋藤
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齊藤康二

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京都東山の祇園一角に店を構えて170年余り、
呉服の専門店として自社で制作した独自の
染物・織物をこの弊店で販売しています。
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弊社の魅力を余すことなくお伝えしていきます。
皆様からのお問い合わせ、ご質問などお待ちしております。
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ぎをん齋藤 齊藤康二
TEL:075-561-1207
(Mail) gion.saitokoji0517@gmail.com

雲取立涌に木瓜唐草文桃山縫い箔

この秋、久しぶりに京都陳列会を開催することになり、この数カ月はもの作りに集中している。

それは単純に在庫を増やすということではなく、”これ”という題材、テーマに出会わなければ始まらない。

言わば創作意欲をかき立てるような材料に巡り合うまでじっくりと資料や古裂と向き合い、

慎重に物事を進めていく大切な時間なのである。

そんな混沌とした時間が私は好きで、頭の中でアイデアや柄をいろいろ膨らませ、構想を練り上げていくと

ようやく一つのテーマにたどり着くのである。

今回、秋の京都陳列会は「京縫い」でいく。

日本の刺繍の起源は1400年の飛鳥時代に遡るといわれており、仏画の刺繍から始まる。

それから約300年、「京縫い」の原点である平安時代には貴族たちの衣装に装飾を施すため、宮中に織部司

(おりべのつかさ)と呼ばれる役所が設けられ、織や染を中心に都であった京都で縫いの技法も発展していった。

その京縫い、現在では30通りの縫い方があり、金銀含め約2000色以上の色糸をその時に応じて使いこなしている。

我々の刺繍では一柄で約15色は使い、細かい部分では葉の葉脈、留め糸、輪郭まで

それぞれ拘って色を変えている。

ここで一つ付け加えると、色数だけでいい刺繍とは言えない。

実はそれ以上に大切なことがあり、ご覧いただいてるようにいい刺繍とは生地に張り付いたような、

ビシッと均等なテンションで生地に馴染んでいるものが良いとされる。

逆を言えばどうだ!これが刺繍だ!と言わんばかりの盛り上がったものは安物といっていい。

なぜなら、同じテンションで縫い続けるにはそれ相応の経験と技術が必要で、

生地に馴染むようにするには細い糸で針足を細かく増やして緻密に刺していかないと

そうゆう風にはならない、ようするに注意深くゆっくり時間をかけるため、その分お金も掛かるという訳である。

さて、いかがでしょうか。

ご覧頂いているものは立涌に木瓜唐草文訪問着の一部。

刺繍は桃山縫い(渡し縫い)、立涌くは摺箔、まさに桃山の色調であり、

時代を反映して蘇った刺繍技法である。

 

 

 

 

能に陶酔する

先日、コロナ後も台風で流れていた能の会がようやく新門前のある料理屋で執り行われた。

金剛流のご宗家、若先生をはじめ男ばかりの錚々たる面々が集まり、

貸切った大広間でお謡いを披露する、なんとも贅沢で気品に満ちた京都ならではの会である。

午後1時半開始、金屏風に赤毛氈、すでに紋付袴に着替えた方々が見台の前に座り何気なく

ゆるりとワキ役から謡いが始まると、それに合わせて地謡にご宗家と若先生が付き、

重厚なお声が響くといっそう能楽の世界へといざなうのである。

この日の演目は松風や綾鼓、羽衣など計五曲であったが最後はあの長丁場景清、

藤原景清晩年の物語なのだが、しっとりと始まる謡いでは後半から語り継がれる戦の場面になると

とても迫力があり、かつての勇ましい姿が思い浮かぶようであった。

午後6時半、後席はいつもながら懇親会となり、優美なお謡いのあとはいい酒とおいしい料理に

舌鼓を打ち、親睦を深めるつもりだったのがその日のお世話役であった小生、大先輩からの

お達しで進行役を任され、最後の最後皆様をお見送りするまで緊張が続き、

酒も肴もまったく手につかなかったが、お役に立てるという満足感は得ることができた。

そしてまた普段とは違う非日常の世界だが、そこに身を置く意味も深く知るいい機会でもあった。

 

 

 

 

 

 

更紗切付け織名古屋帯 制作中

切付け(きりつけ)とはご存じだろうか。

「切りばめ」のほうが一般的だろうか、主に古裂の一部を切り抜き、別の生地に貼り合わせて

文様を構成する技法で古くは室町中期から始まり、渡来した高価な布地を切り取り、小袖や胴服などに

貼り合わせ、効果的に日常使用されてきた技術である。

その技法を使い、古渡更紗を用いて切付けの織名古屋帯を現在制作している。

今回は白生地を一から染めて柄を付けるのではなく、そもそも高価で価値のある古裂を切り刻んで柄に転用する

というなんとも贅沢な織帯、使用する古裂の主役は「古渡更紗 笹蔓手金更紗」(ささつるできんさらさ)

という17世紀インド更紗の中でも有名な代物、字のごとく笹蔓には厚みのある本金がふんだんに使われ、

細工も細かく、色鮮やかな色彩は当時の茶人などの嗜好に合った日本人好みの金更紗であり、

それを惜しげもなくタイコ、ハラに使用するのである、

贅沢の極みといっていい。

途中経過の古渡金更紗切付け笹蔓手織名古屋帯

 

17世紀の古渡というだけあってところどこと金は剥げ落ちているが、

時代と共に流れた時間の厚みや長さを考えると、そのオリジナルの

価値や魅力は大変貴重なものとなり、それが人を引きつける。

今では滅多に出てこないインド17世紀の古渡金更紗、当然簡単に手に入るものではない、

今回も先代が蒐集した古渡以外にあった程度の良いものをかき集め、丁寧に洗浄し程よくなった

ものを使用し織帯の主役として堂々と切付けしているのである。

もちろんその他の更紗もそれぞれある程度劣化はしているが、切付けに耐えうる状態のいいもの、

時代背景や原産地も同じものばかりを集めて慎重に切付けしている。

これからもう一息、いいものが出来上がることは間違いないと確信している。