ぎをん齋藤
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「茶碗の中の宇宙」展を観る。

京都国立近代美術館で2月まで開催される「楽」家の作陶展を観る。

楽茶碗といえば千家の茶道には欠かせない茶碗である。量産不可能な技法から創り出される焼物は轆轤を使わず一つ一つ大切に焼成される。

私が特に好きなのは楽家初代「長次郎」の作品で、千利休が大成した侘び茶を象徴する利休の美意識が結実した作行とも言える。

それよりも今回私が発見したのは本阿弥光悦の赤楽茶碗の素晴らしさである。
銘「加賀」,「乙御前」(おとごぜ)の2碗を観れただけでも十分収穫はあった。形、釉薬、景色どこから見ても完成度に隙がない、以前から写真では見知っていたが実物を見ないとその良さは分からなかった。

楽家と縁戚関係にあった光悦は、茶碗づくりが本業ではなく刀の鑑定を生業とするが書道、作陶だけに止まらずあらゆる工芸への美意識は計り知れない高さを感じた。

古裂展覧会の開催

京都岡崎の細見美術館より「齋藤コレクション」展覧のオファーを受ける。日時は2017年6月17日から8月29日までの約2ヶ月の予定である。


細見美術館の館蔵品は春日大社の御神体、鎌倉時代の「春日曼荼羅」(重要文化財)で有名だが、その他尾形光琳、酒井抱一ら琳派作品、伊藤若冲らの絵画コレクションなど屈指の蒐集を誇っている。

今回のオファーは私にとって大変光栄な事であり、40年間僅かづつ集めてきた古裂がひとつのコレクションとして多くの人達に見て頂ける喜びと日本染織品の卓越した多様性、芸術性を今一度認識していただき、それらを作り出した日本人がいかに素晴らしい感性と美意識を持ち合わせた芸術民族であるか気付いていただければ幸いである。

ただ古裂は彫刻や陶磁器と違い平面の芸術である。しかも古い物に大きいものは少なく、館内の展示が迫力に欠けたものとならないかと早くも心配している。(笑)

近くにあった名建築

下鴨神社敷地に隣接するように建てられた名建築を訪ねた。

我が家から徒歩5分に「旧三井家下鴨別邸」(重要文化財)が存在していたとは全く知らなかった。数週間前に新聞で報道されていたので散歩がてら訪ねることにした。

世界遺産 下鴨神社は糺ノ森の一角にあり京都の原風景と言われているが、別邸もナラの巨木が林立する中に平地を切り開いて建てられたものらしく、原野のたたずまいが色濃い。

玄関から見る一部三階建ての木造建築は明治、大正、昭和の三代にわたって建てられた旧三井家所有の建物を神社参詣の休憩所として合体移築したらしく、一種の不自然さは否めない。

庭園は庭師の作為を感じない素朴な日本庭園で、池に面する茶室は小さな滝から落ちる水音が和敬清寂を醸し出す。

主屋は縁側を広くとった書院様式で広間から庭園を一望に見渡せる。三階部分の望楼は「大文字焼き」を数人で楽しむにはうってつけのロケーションである。

杉戸に描かれた「原 在正」の孔雀図も素晴らしく、何十年もこの地に住まいしながら気が付かなかった隠れた名所が存在するのも、京都の懐の深さかもしれない。