ぎをん齋藤
ぎをん齋藤

女将思い出語り

大河ドラマ女優 藤村志保さん

武原はん先生は「芸は一代かぎり」をモットーに一人も弟子を持たれませんでしたが、唯一女優の藤村志保さんが押しかけ弟子の形で先生からお稽古を受けていらっしゃいました。その折に私も藤村さんとお目にかかる機会に恵まれ、今日までお互いに連絡を取り合う仲となりました。

藤村志保さんは皆さまも良く御存知の通りNHK大河ドラマに多く出演なさって、数多くの物語が印象的でございますが、特に平成三年放送の「太平記」の時は主演の真田広之さん演じる足利尊氏の母親、清子役を受け、その為の役づくりにとてもご熱心で、京都の寺社巡りに私もお供を致しました。

尊氏が生まれたとされる京都府綾部市景徳山安国寺にある井戸水で尊氏が産湯をつかった経緯から、当時長い歴史を経て寂れてしまった安国寺に藤村さんが訪問する為、事前に直接連絡を取りました。当日、早朝より東京を発って、私と綾部に向かったのですが、綾部駅改札には、思いもかけなかった市職員の方々のお出迎えを受け、公用車を用意していただき、私たち二人はびっくりです。更に宴席のご準備まであったのですが、さすがにご遠慮させていただきました。

大河ドラマの舞台となれば、綾部市にとっても「町興し」のきっかけとなりますから、市中が賑わうことは喜ばしい事なんでしょう。 綾部の用事を済ませて、藤村さんは京都に戻り尊氏ゆかりの等持院、銀閣寺心空殿の千体地蔵菩薩を拝跪して東京へ帰られました。

映像の中の藤村志保さんは可憐で優しく、おっとりとした役柄が多いのですが、素顔は生粋の横浜生まれの「浜っ子」で、歯切れの良い闊達な感性の持ち主です。また、そのお母様も当時の女性としては上背があり、物事に対して鷹揚に構え、時々私がご自宅へ伺うと「齋藤さん、ホテルの食事は飽きるでしょ!夕飯を食べて帰りなさい!今夜はね、大根とイカの煮物、いわしのつみれ揚げ、それに酢ごぼうよ!」と…。それが「おふくろの味」とは良く表現したもので、あの美味しさは忘れられず、今でもまねて作るのですが、あの味は出せません。

その後は家族ぐるみでの交遊が続き私の娘は時々、撮影所に遊びに行ったりしたものです。娘の結婚披露宴で藤村さんは介添もつとめて下さり、会場はご年配の方々が多く藤村さんの登場にとてもびっくりして大変喜んで下さり、良い宴となりました。スケジュールの詰まった中での娘への心づくしを有難く感謝しています。藤村さんは現在、体調を崩され療養しておられますが、一日も早くお元気になり、再び映像の中でお会いしたいと心より祈っております。

頑張れ!志保さん!