ぎをん齋藤
ぎをん齋藤

女将思い出語り

「相変らず…」の有難さ

年末が近くなると床間の軸は「無事」と書された掛物に替えます。今年も家業、家族に何事もなく「相変らずの一年だった…」と云う意味を持ち、感謝と来年も「相変らずの一年でありますように…」と祈る気持ちで床飾りをします。

しかし、ここ二年間は年末にこの軸を掛けても、コロナ禍で人の心が閉ざされ虚無感で毎日のニュースも悲惨な事柄が続き、全世界が「うつ状態」でした。

コロナ禍前の日常生活を我々は当然に、そして更に不平や不満を胸に溜めながら無意識に時間を浪費して過ごして来ました。平時の日常が非日常に変化した時、人間の心の弱さ、集団から産まれる恐さは心の不安定さを増幅します。

この経験から私たちは日常些事の取るに足りないような事柄が改めて有難い事を痛感しました。十月からは行動も緩和され、少しずつ小さな光が見えて来たような気がしますが、浮き浮きする心をおさえて、一歩一歩慎重に日常生活に戻していけたら良いだろうと感じますし、以前に浪費して来た「相変らずの一日一日の大切さ」を実感しつつ、感謝して丁寧に生きたいと思います。

私もこの一年は悲しい別れも経験し、決して「相変らず…」ではありませんでしたが、だからこそ日常些事の有難さを念頭におき、大切に過ごしたいと思います。