ぎをん齋藤
ぎをん齋藤

女将思い出語り

私のタンス その2

前回のブログに続き、私のタンスの中より今回は着用時の選び方や楽しみ方などを私なりに書き留めました。

自分の普段着、お稽古等は紬と帯との組み合わせが多いのですが、私は結城が大変好きで、着崩れがなく軽くて着易い事と、周りの人々との融和が利点です。冬は濃い色のきものに少し明るめの暖色帯を…春先は逆に、初夏に向けて薄めの色のきものに、キリっと深い色の染帯を組み合わせます。

 

観劇の時にこだわりたいのは…やはりご贔屓役者さんのシンボルに因んだ柄とか、演目に関連する図柄を選んだら更に粋さを感じて、観劇を二倍に愉しめますね。私は中村吉右衛門さんの時代物と、江戸粋の菊之助さんの軽妙さが好みです。

お祝い・社交着は…冒頭、真っ先に考える事は、同席する顔ぶれや昼か夜の祝宴か…など、ですが更に男性が同席する折は、女性らしく優しい華やかさの組み合わせが良いかと思います。女性のみの席なら、少し控えめで和を重んじた調和の組み合わせが必要でしょう。同性としての心遣いかも知れません。

 

このように、私たちが着物を着る時、基本は季節感も含めて「着る事を愉しむことで、それによって周りの人々に心地良い空気感を共有」する事でしょう。この意味だと洋服にはないデリケートな味が着物の中に沢山あるかと思います。

日常の洋服生活から非日常の着物時間を愉しんでいただけたら、呉服屋冥利に尽きます。

私のタンス(箪笥) その1

私の着物入門が御所解染帯ではじまり、家業のおかげでだんだんと結城や紬、小紋等から茶道、能などと着物と帯との範囲が広がり私自身の感覚が変わる中でタンスの中味も多種多様に柄・素材のこだわりが増して来ました。

用途に応じた着物と帯の組み合わせ方は、祇園のお茶屋のお母さん(女将さんをお母さんと呼びます)達から教えていただいた学びでした。

 

①、ちょっとした外出の時の着物と帯

②、お座敷で芸妓さん達を引き立たせる時の着物と帯の組み合せ

③、大きな宴会やパーティの時のお顔ぶれに合った組み合せ

④、観劇の時、役者さん達へご贔屓の心粋の組み合せ

⑤、習い事の発表会の着物の取り合わせ

などが「どんな時にどんなものを着るか…」という一般の我々が悩む時の参考の基本であると思います。

 

また、洋服にはない着物の深み、味、歴史等以外に、ストレスなく着る工夫が楽しみになり、お茶屋のお母さんから「ああ、なるほどなあ…」と教えられた事が実に多々ありました。

着物は体にまとわりつくように、ストレスなく着る事が大切で、曲線感覚で着る事が苦痛なく長時間着ていられるコツだと思います。雑誌の中でモデルさんが着ている様な直線的着付けは姿が綺麗ですが、動きがある現実では無理な事と思います。身体は各々個性があるので「ゆるやかにまとう」着方だと更に楽しい着物時間が過ごせると信じています。

さて「ゆるやかにまとう」にはどうしたら良いか…基本では仕立ての寸法ですが、特に胸巾、衿付け、袖付けがポイントとなります。いづれ着付けのお悩みはご相談にのりたく存じます。

最後に、着物と帯の組み合わせをいくつかご紹介致します。詳しくは次回に引き続いてお話させていただきたいと思います。

お祝い事などおめでたいお席に…

お稽古の発表会や歌舞伎観劇に…

歌舞伎観劇に演目に因んで…

お茶会や謡い発表会に…

華やかなパーティの装いに…

 

人は石垣

五月を待たずに河岸堤にはたっぷりと葉をつけた柳の木が、初夏を思わせる風にゆらりゆらりと心地良さそうに枝を揺らしています。

そんな中でふと、振り返ると、町並みの家々の入口扉に冷たく悲しそうに貼り紙されて「休業」や「廃業」のお報せです。その貼り紙も黄色く変色している所を見れば、もう随分前から貼られているのでしょう。

時短営業、ロックダウンの繰り返しで残念ながら経営が行き詰まり止めざるを得ない事態に至ったのでしょう。それまでは日常の生活の中で人々との絆、語らいの中で生き甲斐を感じ生活を送っていた経営者が、共に働いていた従業員を解雇せざるを得ない辛い決断をした心情を思うと、実に悲劇な結論と痛感します。

店舗、会社は勿論の事、社会の中の集団は全て頂点を支える為に、その下に多くの人々が力を合わせて成り立っています。

私は出身が山梨県甲府…つまり戦国武将・武田信玄の甲州です。信玄の名言に「人は石垣、人は城なり…」という言葉があり、いつの世も強い人材こそが城を支える石垣であると理解しています。

形の整った大きな石ばかりが沢山あっても、その石の間に差し込む小さな形の悪い石も必要で、大小が相互に支え合ってこそガッチリとした石垣が出来て、その上に城が築けるという事ですが、やはり今のこの世の中、財務的にも困窮状態となる会社が多いでしょうが、何とかこの大小の石の繋がりによって時間をかけて積み上げて来た石垣だけは守り続けて欲しいものです。

この石垣は会社だけでなく家庭という集団、友人関係等、人と人とが繋がった時に徐々に石垣が積まれて行きますが、一緒に積み上げて行く努力と楽しさを想うと、実に幸せを感じます。