ぎをん齋藤
ぎをん齋藤

女将思い出語り

「のれん」の責任

真夏の強い陽差しの中で照りつけられた麻のれんを見つめて、改めてその時間の流れを感じました。この新門前で二百年余り呉服の生業を営んで来ましたが、京都の中ではまだまだ新参者でもっともっと長い歴史を持ったお店は沢山あります。

戦後の世の中、社会の速い変化の中で京都だけは変わる事なく、昔のままの日常を過ごしております。考えてみればこれは凄いことで「守りぬく力」はその時代を生きた先人たちの忍耐と努力、そして犠牲の上に成り立っているのだと痛感致します。が、ただ、その先人たちはその折々に同時に張り合いや自己満足も伴ったと思います。

店構えは言うに及ばず、仕事への姿勢、自身の生活の倹約、積極的な社会的集団儀礼等、毎日毎日をこのような意識があればこそ今まで続けて来れたのだと思います。

戦後、経済的な乱高下やバブル好景気等があっても世情に流される事なく冷静に判断、行動する術は応仁の乱以後、京都人が身につけた「身のかわし方」で独特な感性だと再認識しました。

このように守って来た「のれん」は今や日本の歴史そのもので風情を残し、生活習慣を守り続けた結果だろうし、我々は当事者として今後何をすべきか?…と考えた時に、真先に後継者の育成だろうと思います。

若者たちは新しい近代的なツールの中で育ち、思考も欧米化しているけど、果たしてそれが正しいのか…一歩立ち止まって客観的に自身を見つめ直す習慣をつけて「守り貫く難しさ」を識って欲しいです。

主人も人生の中で自問自答する時期が長く続き落ち込んでいる日々が多々ありましたが、自分の道をみつけた時から「のれん」を意識して仕事が始まりました。

私のタンス その2

前回のブログに続き、私のタンスの中より今回は着用時の選び方や楽しみ方などを私なりに書き留めました。

自分の普段着、お稽古等は紬と帯との組み合わせが多いのですが、私は結城が大変好きで、着崩れがなく軽くて着易い事と、周りの人々との融和が利点です。冬は濃い色のきものに少し明るめの暖色帯を…春先は逆に、初夏に向けて薄めの色のきものに、キリっと深い色の染帯を組み合わせます。

 

観劇の時にこだわりたいのは…やはりご贔屓役者さんのシンボルに因んだ柄とか、演目に関連する図柄を選んだら更に粋さを感じて、観劇を二倍に愉しめますね。私は中村吉右衛門さんの時代物と、江戸粋の菊之助さんの軽妙さが好みです。

お祝い・社交着は…冒頭、真っ先に考える事は、同席する顔ぶれや昼か夜の祝宴か…など、ですが更に男性が同席する折は、女性らしく優しい華やかさの組み合わせが良いかと思います。女性のみの席なら、少し控えめで和を重んじた調和の組み合わせが必要でしょう。同性としての心遣いかも知れません。

 

このように、私たちが着物を着る時、基本は季節感も含めて「着る事を愉しむことで、それによって周りの人々に心地良い空気感を共有」する事でしょう。この意味だと洋服にはないデリケートな味が着物の中に沢山あるかと思います。

日常の洋服生活から非日常の着物時間を愉しんでいただけたら、呉服屋冥利に尽きます。

私のタンス(箪笥) その1

私の着物入門が御所解染帯ではじまり、家業のおかげでだんだんと結城や紬、小紋等から茶道、能などと着物と帯との範囲が広がり私自身の感覚が変わる中でタンスの中味も多種多様に柄・素材のこだわりが増して来ました。

用途に応じた着物と帯の組み合わせ方は、祇園のお茶屋のお母さん(女将さんをお母さんと呼びます)達から教えていただいた学びでした。

 

①、ちょっとした外出の時の着物と帯

②、お座敷で芸妓さん達を引き立たせる時の着物と帯の組み合せ

③、大きな宴会やパーティの時のお顔ぶれに合った組み合せ

④、観劇の時、役者さん達へご贔屓の心粋の組み合せ

⑤、習い事の発表会の着物の取り合わせ

などが「どんな時にどんなものを着るか…」という一般の我々が悩む時の参考の基本であると思います。

 

また、洋服にはない着物の深み、味、歴史等以外に、ストレスなく着る工夫が楽しみになり、お茶屋のお母さんから「ああ、なるほどなあ…」と教えられた事が実に多々ありました。

着物は体にまとわりつくように、ストレスなく着る事が大切で、曲線感覚で着る事が苦痛なく長時間着ていられるコツだと思います。雑誌の中でモデルさんが着ている様な直線的着付けは姿が綺麗ですが、動きがある現実では無理な事と思います。身体は各々個性があるので「ゆるやかにまとう」着方だと更に楽しい着物時間が過ごせると信じています。

さて「ゆるやかにまとう」にはどうしたら良いか…基本では仕立ての寸法ですが、特に胸巾、衿付け、袖付けがポイントとなります。いづれ着付けのお悩みはご相談にのりたく存じます。

最後に、着物と帯の組み合わせをいくつかご紹介致します。詳しくは次回に引き続いてお話させていただきたいと思います。

お祝い事などおめでたいお席に…

お稽古の発表会や歌舞伎観劇に…

歌舞伎観劇に演目に因んで…

お茶会や謡い発表会に…

華やかなパーティの装いに…