ぎをん齋藤
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齊藤康二

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京都東山の祇園一角に店を構えて170年余り、
呉服の専門店として自社で制作した独自の
染物・織物をこの弊店で販売しています。
ぎをん齋藤の日常からこだわりの”もの作り”まで、
弊社の魅力を余すことなくお伝えしていきます。
皆様からのお問い合わせ、ご質問などお待ちしております。
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ぎをん齋藤 齊藤康二
TEL:075-561-1207
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江戸中期の能装束から現代へ

これはある資料から取り出した江戸中期頃の能装束、「松に白鷺文様縫箔」。

縫箔の装束には平織の生地を使い、浅葱地に肩から袖は青海波、腰には網、裾周りには唐花七宝が

金銀の摺箔で施され、上には白鷺、裾には浜松が慶長の名残を想わせる縫いで優美に表現されている。

また、この装束は”前田公爵伝来 第三八一ノ内”と明記された前田家と縁のある銘品の一領でもある。

今回はこの美麗な装束を訪問着として再生している最中でその一部をご紹介したい。

まず縫箔というと桃山から始まり江戸(慶長)まで、縫いと共に発展してきた所謂デザインの一つであり、

この装束もその流れを受け継ぎ、様々な摺箔に緻密な縫いが施されている。

一見単調に思えるデザインだが、上の装束をご覧いただくとおわかりのように摺箔には肩から裾にかけて

金と銀を使い分け絶妙な濃淡で変化をつけ、その色調に合わせて刺繍の色合いもまた変えているのがわかる。

着物というのは上は薄く、裾まわりはしっかりした色のバランスが良いとされているのが

この装束を見て納得いくのではないだろうか。

まだ我々の訪問着は未完成だが、その一部をお見せしよう。

これは剥落させた金銀摺箔に慶長の縫いで白鷺と浜松を表現している。

特徴としてはこの白鷺をご覧いただきたい、慶長特有の色調とデザイン化された形、

私は一目で惚れてしまった。

 

 

 

笑う少年

今朝の日経にこんな記事があった。

「一気に描く、できるだけ一気に。彼がそんな風に描いているのを見れるのは何という喜びだろう。」

とこう書いたのはあの”フィンセント・ファン・ゴッホ”(1853~1890)である、と。

これは17世紀、レンブラントと同じくして1600年代を中心に活躍したオランダ出身の

大画家、フランス・ハルス(1582~1666)の油絵である。

彼の特徴はそのほとんどが肖像画であり、よくあるだんまりした堅苦しい額縁の作品ではなく、

表情の一瞬をとらえた今でいう写真のような素早い描写力、またそれによって喜怒哀楽や

当時の時代背景も感じ取れるくらい人間味溢れる作品が多い。

私は以前、イタリアにいた頃”Uffizi”美術館でレンブラントを含め、彼の

作品も見てきたので、懐かしく感じるところがある。

有名なものには「陽気な酒飲み」や「頭骸骨をもつ男の肖像」など、その独特な

感性と描写、風俗画も含め人物の息遣いや身振りまで、生々しいその画風は

見ている者を引き込む力がある。

さて、話しを戻してこの笑う少年、どこか粗さを感じると思うが、これは

日経にも書いてあったように、速描きといって一気に力強く、最小の筆遣いで

描き上げる当時としては珍しい技法の一つである。

一瞬をとらえるため、その印象を逃すことなく勢いに任せて一気に描き上げることで

躍動感や笑う楽しさ、陽気さなど、その人物の内面もその筆遣いによって表現される、

決して雑とは違う、当時は画期的な技法であった。

言うまでもなく、写真機という代物が発明される約200年も前に、このような人の存在感をも

描き上げたその作品たちは大変貴重で傑作である。

 

 

 

73回目の京都秋の陳列会

戦後、昭和20年頃から始めた京都の陳列会も今年で73回目を迎える。

私の記憶にある古い思い出はまだ小学生の頃、会名は「双葉会」といい、秋冬の繁忙期を見越して

夏の終わりの残暑厳しい9月に行われていた。

当時は祖父母も含めた家族経営であったため、商店には主人とその血縁関係の

人間が表で働き、あとはいわゆる年季奉公の丁稚(でっち)が一人、外をカブで走り回っていた。

そのため陳列会となると家族総出で店の会場作りに駆り出され、子供の私も撞木や重い反物を

汗だくになりながらせっせと運んだのを今でも思い出す。

あの当時は今のように労働時間に何の制約もなかったので、みんな夜遅くまで頑張っていたものである。

そんな慌ただしい二日、三日の会であったが最終日の夕方、全ての片付けが終わると

応援に駆けつけてくれた同業の方々と一緒に近くの銭湯へ行って汗を流し、

それから店先でちょっとした慰労会を開くのが楽しみであり、恒例となっていた。

御膳の上には日ごろは食卓にでないような豪勢な食事や酒が花を飾り、疲れを癒して労をねぎらう

その雰囲気はとても心地良く、子供ながらにその楽しさを味わっていたのが懐かしく感じる。

さて、今回の陳列会は73年目というぎをん齋藤の長い歴史の続きである。

これまで様々な出来事や経験、そして長い時間を経て今のぎをん齋藤があると自負しています。

第1回目と同じ場所、同じやり方で今回も皆様をお待ちしています。

どうぞ楽しみにいらしてください。

銘:朱地松皮菱辻が花染名古屋帯