ぎをん齋藤
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「死者の書」を読む

奇怪な小説「死者の書」を読む。

そもそも「死者の書」とは古代エジプトにおいて死者が霊界に入るための手引書らしい。

この名をタイトルとして「折口信夫」が書いた小説がこれだが、この著が20世紀に書かれた小説だと誰が信じるであろうか?
まるで古典文学の授業のテキストの様な文体、内容である。

筆者、「折口信夫」の死生観と奈良朝の生活風習を古文体で書いた様な難解な書には「池田弥三郎」(慶應義塾大学教授)の注釈が添えられているにもかかわらずストーリーが見えてこなかった。

時代は奈良に都があった時代だから奈良朝時代初頭と思われるが、藤原氏南家の姫を巡って「二上山」の上に現れる「阿弥陀如来」が主題になっているが、当時の生活風習と折口氏の宗教観が複雑に絡み合ってストーリーが展開されるので、話の前後が良くわからず理解し難いのである。

ただ一部に「蓮」の繊維を作り、機織りする場面が登場する。

この下りがなければ途中で読むのを放棄していたであろう。

私もミャンマーで蓮の糸を作る現場を見てきたが、奈良時代の蓮糸作りの方が緻密で手間がかかっているとみた。

ただ小説の一節だからどこまで信じて良いのか疑問だが、蓮糸を細い繊細なものにするには滝の澱みに漬けては乾燥させを繰り返し、後に細く割いて細い蓮糸を麻糸をつなぐ手法でうむ(績む)とある。

この言葉は現在でも麻糸を作る現場では使われているから信憑性はある。

さらに注釈には染めには「摺染め」、「持ち染」、「浸け染め」が出てくる。

織り上げた布の染め仕事は家庭の女たちが行った。

「型を当てて摺り出す染め方」、「染め汁を持った草葉を当てて持って染め出す方法」、「染め汁の中でずっぷりとつけて染める方法」などと言い分けている。

このように奈良時代にも上記の様な染め技法が行われていた事は興味深い。

しかも「唐土でも天竺から渡ったものは手に入りにくい蓮糸織を遊ばすというのじゃもののう」と蓮糸の上物はインド製だと言う。

また麻糸の生産も行われていたようで後世、「奈良晒し」と呼ばれ奈良の特産品となったように思われる。

染色について紫を染める「紫根」と赤を染める「茜」はいい色が出ないのを「韓人」の指導によってうまく行くようになったともある。

古代染織史を辿ると奈良朝時代から女性の手仕事として広く染織がされていたのは事実であろう。

だがこの「死者の書」は折口氏が目指した究極の恋愛小説だと解説者は述べる。

そうだとすると余計に私には理解不能な奇怪な小説になってしまう。