社員へ物創りの直接指導を始めている。どの程度、かれらに有効か予測出来ないが、私が自己流で身に付けたノウハウを伝授するのは知識の伝承という人間らしい営みだと思っている。
例えば、1枚の裾模様を作ろうとすると、資料となる古裂のコピーを元に舞台の背景を作る。この大道具役はぎをん齋藤で30年以上、下絵を依頼しているM君で、原寸大の紙草稿に鉛筆でザックリしたラフスケッチを描かせる。
それを仮絵羽した白生地と共に引き染め屋へ運ばせ、私が選んだ色見本通りに地色や舞台となる背景の「山」や「川」など、「ぼかし染め」を加えて染め上げる。
今度は配役である。主役を誰にするか?千両役者のような大看板に依頼するか、若手の気鋭にするか。つまり「総刺繍」の高価な技を使うか、「友禅」のような一格下で場面が持つか、想像を巡らせるのである。主役が決まれば脇役、その他の者が主役を引き立たせる演技をさせればお客は満足するであろうと算段する。
きものは裾模様のもばかりではなく、付下げなど気軽なものもある。それを舞台に例えれば、大看板が一人芝居をするのか、端役連中が大勢集まって構成するのかの違いだと教えている。結局、お客様に木戸銭よりも面白かったと納得させればいいのかと思っている。