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- 店主の記録 -

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筆 : 齋藤 康二

とある依頼を受けて、昔の振袖を引っ張りだしてきた。

これは私の妹が約20数年前に着たもので、当時「ミセス」という

雑誌にも掲載された着物である。

生地はしっかりした縮緬、地色は鬼しぼによく合う深緑、

そして”白ぬき”という技法で浮き出た波に、友禅や縫いを施した

宝尽くしがいかにも「古典」を表している。

深緑縮緬波に宝尽くし、白地縦涌草花能衣装写し袋帯

その後、雑誌にでたこともあり歌舞伎界や、一般の方から色違いで

追加の注文もあったと聞いている。

あくまでも私個人の好みと解釈だが、昨今の振袖は衣装として製作する傾向が

強いあまり、上前も下前なく全面に柄があり、襟や袖口にはレースや様々な化粧を施した

賑やかな商品が好まれる。

その一方で所謂「昔の振袖」という古典柄の着物は地味なせいか、見かけることが

少なくなってきているのではないだろうか。

しかし、皆さんに知っていただきたいのは、昔の柄(宝尽くしなど)には日本の伝統文化が

育んだ、「古典」ならではの大きな意味があるということ。

元々振袖とはその古典柄を生かした縁起の良いもの、そしてこれからの門出を

祝うための”お召し物”であり、それを誂える親の願い、また身に着ける子の行く末を

加味した心のこもった贈り物でなければならない、と歴史を振り返ればわかる。

なぜこの着物をこのタイミングで着るのか、この柄の意味は何か、そういった着る

意味と楽しみがなければ成人式という儀式はただの仮装行列にしかならない。

有職、吉祥、そのすべてには”縁起”という日本人が培ってきた文化があり、

それを身に纏うという、奥深い「日本の心」を忘れてはいけない。

筆 : 齋藤 康二