印金屋さんと呼ばれる、染物制作の一工程である。彼を知ったのは一昨年のことである。
工芸展に出品していたSさんの作品に一目惚れして、早速仕事の依頼に、彼の自宅兼工房を探し当て赴いた。彼の技術、特に極細な線を緻密に施す技は、正に一級品である。しかも絵心があって細かな指示を出さなくても、自由に細い筒を使って金の線を描き出せるのである。
金彩の仕事は生地に金、銀箔を塗布する作業だが、接着材によって硬くなり、絹のしなやかさが消えてしまうことがある。そこで匠は接着剤の選択と混合を試し、最良のものを調合する。
その作業も大切で必要なだが、最も肝心なのはデリカシーである。細かな金粉を蒔く作業で、どの程度蒔けば私の意に沿えるかを、繊細な感性で金箔の密度を決めていく。これは技術ではなく、生まれ持った先天的資質の問題である。日本人の特質である、繊細な差異を感じ取れる感性を生まれ持っているかどうかの問題である。
掲載した帯は、彼に依頼した最新作で「流水に雲錦模様」。名古屋帯の一部だが、彼の特質が見事に発揮された作だと自賛している。