グループ会社齋藤織物では毎朝ラジオ体操と掃除を済ませてから仕事にかかっている。
ガチャン、ガチャンと手機独特のリズムが空間に響き渡る。
小刻みに踏板で経糸を上げ、杼(ひ)を左右交互に通して緯糸(ぬきいと)を
織り重ねていくその音色はとても心地よく、またそれを何時間も続ける職人の体力と集中力には
一種のプロフェッショナルを感じる。
さて、そんなアトリエ工房齋藤織物で制作しているのは手織りで仕上げる逸品。
先代から始めたそれらの作品は、蒐集した古裂や資料を研究し何度も試織で色の調整をして、
ようやく「袋帯」という形で再現できるのである。
自画自賛にも聞こえるが、もはや現代に蘇った美術品といってもおかしくない。
例えば、この「双龍連珠文袋帯」。
元は中国美術史における唐代中期の獣頭連珠文錦(覆面)にみられる文様で、
二重の連珠に二頭の龍を左右対称に配置し表現している。
錦については唐代初期に大きな変革があり、当時四川では宮廷の工房を中心に錦や綾の生産が盛んとなった。
また同時に大暦6年(771年)、一種の倹約令が出されるほどその多くが龍や獣などの伝統的な吉祥文を
対象とした西方伝来の動物文様であった。
それらは国際商人ソグド人によって西に運ばれ、また一部は現在正倉院にも残っており、
我々作り手はそれら貴重な古裂や資料をもとにいわゆる、再作成しているのである。
素材:からむし 齋藤織物謹製
※資料
:双龍連珠文 唐(618~907)8世紀前半
平織に綾織で表現した文キ。
:新疆ウイグル自治区博物館