先日、遠方から若いお客様が3名来られた。
京都観光の初日にも拘らず、真っ先に予約をとって朝早くから来られたことを思うと、
よほどの着物ファンだったのだろう。
ご存じのように当店は典型的な京町屋の商売、よく目にするショールームはなく軒先には
齋藤の暖簾と行燈がかけてあるだけで、一見何屋か見当も付かない緊張する店構えである。
まして若い方には暖簾をくぐるのも勇気がいっただろうが、それでも遥々よく来てくれたとこちらは大歓迎である。
それから小一時間、着物を前に会話も弾みお帰りになられたが、実は普段も着物を着られる
上級者で、知識もあり、よくものを見ていたので感心した。
昨今、コロナ禍で着物需要はめっきり減少したが、このような若い世代の方々が着物に興味を持ち、
高価なものと承知の上”こういうのが着たい、この色目が素敵!”と自分に重ね合わせ、
将来を思い描いてくれたことがとても印象に残り、私にとっても新鮮な時間であった。
よく社内でも接客について意見を交わし、最善のおもてなしを心掛けるようにしている。
それはあれやこれや、無造作に商品を畳一面に広げることがおもてなしではない、
お客様が見たいもの、本当に望んでいるものを会話の中から探り当て、これぞ!という品を
タイミングよく出してくるのが京都の商売、老舗本来のやり方である。
打てば当たる方式で、数だけ見せて選んでもらうという単純なものではない。
おもてなしという曖昧な表現の裏には人の心を打つ”感動”がないと本物の客商売とはいえないのである。
我々はミシュランの三ツ星を目指していく。
(三ツ星:そのために旅行する価値のある卓越した店)