この6月から私はまた秋冬のもの作りに励んでいる。
今、特に力を入れているのが染物の花形、”辻が花”。
といってもその文様は多種多様、単純な絞りの染め分けから格子模様、また草花を精密に細かく
絞り分け、侘びを出すため描き絵を施したものなど、文化と時代に沿ってその伝統技能は発展し継承されてきたが、
江戸中期になると技法はますます細分化され、合理性を求めるようになりついには姿を消すことになる。
絞りは遡ること奈良時代、”纐纈”(こうけち)と呼ばれるごく単純な絞りから始まる。
それから中世に入り、室町末期に草花を絞り染によって表現したものが登場し、桃山の初期から
江戸の中期になると、絞りに刺繍や摺箔、描き絵(虫喰い)などを加えてより贅沢なものとなり、
当時上層を占める武家の生活の中で欠かせない装飾品として広く活用されていた。
その辻が花、実は名の由来は定かでない。
これまで、これが”辻が花”であると記録が添えられた実物遺品は一点もなく、
厳密にいえば正確な答えが見つかっていない。
明治か大正の頃、その魅力を見出した数奇者によって命名された、言わば造語であるといわれている。
また一説には室町初期、当時最先端の流行りものが一番に出まわる都、京都の地名辻が端(花)から
その名称が生まれたという噂もあるが、これもどうもこじ付けのように聞こえる。
如何にあれ、辻が花(つじがはな)という美しい響きはその絵画的な魅力にぴったりである。
話を戻すと絞りより刺繍や友禅の方がよっぽど高い技術が必要と思われるかもしれないがそうではない、
一番大きな違いは刺繍や友禅の色調は加工途中でも調整できるが、絞りはいったん桶に入ると
解いて伸ばしてからでないと出来栄えがまったく分からず、また手直しもできない。
いわば出来不出来は一発勝負、その人の知識と経験、そして感性が問われる代物なのである。
これからじっくりと構想を練り、辻が花本来の美を引き出せるよう感性を磨き体得していく。