きものを愉しむ / 

- 店主の記録 -

PLEASURE /

筆 : 齋藤 康二

この秋、久しぶりに京都陳列会を開催することになり、この数カ月はもの作りに集中している。

それは単純に在庫を増やすということではなく、”これ”という題材、テーマに出会わなければ始まらない。

言わば創作意欲をかき立てるような材料に巡り合うまでじっくりと資料や古裂と向き合い、

慎重に物事を進めていく大切な時間なのである。

そんな混沌とした時間が私は好きで、頭の中でアイデアや柄をいろいろ膨らませ、構想を練り上げていくと

ようやく一つのテーマにたどり着くのである。

今回、秋の京都陳列会は「京縫い」でいく。

日本の刺繍の起源は1400年の飛鳥時代に遡るといわれており、仏画の刺繍から始まる。

それから約300年、「京縫い」の原点である平安時代には貴族たちの衣装に装飾を施すため、宮中に織部司

(おりべのつかさ)と呼ばれる役所が設けられ、織や染を中心に都であった京都で縫いの技法も発展していった。

その京縫い、現在では30通りの縫い方があり、金銀含め約2000色以上の色糸をその時に応じて使いこなしている。

我々の刺繍では一柄で約15色は使い、細かい部分では葉の葉脈、留め糸、輪郭まで

それぞれ拘って色を変えている。

ここで一つ付け加えると、色数だけでいい刺繍とは言えない。

実はそれ以上に大切なことがあり、ご覧いただいてるようにいい刺繍とは生地に張り付いたような、

ビシッと均等なテンションで生地に馴染んでいるものが良いとされる。

逆を言えばどうだ!これが刺繍だ!と言わんばかりの盛り上がったものは安物といっていい。

なぜなら、同じテンションで縫い続けるにはそれ相応の経験と技術が必要で、

生地に馴染むようにするには細い糸で針足を細かく増やして緻密に刺していかないと

そうゆう風にはならない、ようするに注意深くゆっくり時間をかけるため、その分お金も掛かるという訳である。

さて、いかがでしょうか。

ご覧頂いているものは立涌に木瓜唐草文訪問着の一部。

刺繍は桃山縫い(渡し縫い)、立涌くは摺箔、まさに桃山の色調であり、

時代を反映して蘇った刺繍技法である。

 

 

 

 

筆 : 齋藤 康二