先日、コロナ後も台風で流れていた能の会がようやく新門前のある料理屋で執り行われた。
金剛流のご宗家、若先生をはじめ男ばかりの錚々たる面々が集まり、
貸切った大広間でお謡いを披露する、なんとも贅沢で気品に満ちた京都ならではの会である。
午後1時半開始、金屏風に赤毛氈、すでに紋付袴に着替えた方々が見台の前に座り何気なく
ゆるりとワキ役から謡いが始まると、それに合わせて地謡にご宗家と若先生が付き、
重厚なお声が響くといっそう能楽の世界へといざなうのである。
この日の演目は松風や綾鼓、羽衣など計五曲であったが最後はあの長丁場景清、
藤原景清晩年の物語なのだが、しっとりと始まる謡いでは後半から語り継がれる戦の場面になると
とても迫力があり、かつての勇ましい姿が思い浮かぶようであった。
午後6時半、後席はいつもながら懇親会となり、優美なお謡いのあとはいい酒とおいしい料理に
舌鼓を打ち、親睦を深めるつもりだったのがその日のお世話役であった小生、大先輩からの
お達しで進行役を任され、最後の最後皆様をお見送りするまで緊張が続き、
酒も肴もまったく手につかなかったが、お役に立てるという満足感は得ることができた。
そしてまた普段とは違う非日常の世界だが、そこに身を置く意味も深く知るいい機会でもあった。