先日、東京のある古美術商を訪れた際、店主の計らいで数々のすばらしい軸を拝見できた。
「本物」を見ると勉強になるといつも貴重な品々を快く拝見させてくれるS氏の
ご配慮には、心から感謝の気持ちでいっぱいである。
今回は楽しみにしていた尾形光琳の燕図と、その流れを汲む深江蘆舟(ロシュ)の作品。
まず最初に現れたのは蘆舟の軸、深江蘆舟(1699年~)は江戸中期に活躍した琳派の
中堅画家、駆け出しの頃は光琳に師事したという経歴だが、画風は光琳のような
ダイナミックでモダンな感覚ではなく、むしろ素朴で約100年前の宗達一派に
近いと言われている画家である。
上下立派な古裂で軸装された上方から、躍動ある湾曲した枝ぶりが品よく垂れ下がり、
何百年も前のものとは思えないほど色鮮やかな”朱色”で表現された紅葉が、
絶妙な濃淡ぼかしで枝先に散りばめられている。
そしてその脇には真っ白な装束に烏帽子という出で立ちの人物が座り込んで
足を放り投げ、満足そうに眺めている何とも優美な軸である。
そんな蘆舟の作品をこのタイミングで見せて下さったS氏の粋な計らいにも感動した。
そしていよいよ尾形光琳燕図の登場である。
こちらは先程のよりひとまわり小ぶりで正方形に近い寸法だが、生命の一瞬を捉えたその
迫力はまさに光琳の世界、画の力強さは特別である。
蘆舟が”静”なら光琳は”動”、その画風はやはり大胆かつ繊細な表現で、
対の燕を表裏(白黒)みごとに描き上げている。
また、その下には面相筆による絶妙な線で描き起こされた波があり、対峙する燕の緊張感を
より際立たせ、それを躍動感ある動きによって左から右に流しているところはさすがである。
些かそれらの魅力を言葉で表すのは私の語力では限界があるが、頭の中は作り手として
創作意欲でいっぱいであり、わくわくしている。