きものを愉しむ / 

- 店主の記録 -

PLEASURE /

筆 : 齋藤 康二

辻が花というと自然の草花を具象化し、絞り染めで生き生きと表現する技法の一つである。

長く続いた応仁の乱によって当時多くの貴重な染織品が焼かれ消滅したが、

後の室町・桃山時代に入ると名物裂と共に新たな技術も渡来し、染織産業も盛んになるのだが、

その中で絞りといえば特に秀吉の「桐紋陣幕」は有名である。

勿論、何百年にも渡り京都の職人によりその技術は継承され、当時の絞り技法は

色褪せることなく今の我々もその恩恵を受けている。

<木賊地雲取菊桐辻が花 染帯>

これは今の絞りを使った辻が花。

作品は16世紀、中世の室町・桃山文化にある辻が花をモチーフに再現したもので、

その特徴は色の配色や雲取、草花の品種や形など余すことなく

当時の魅力を再生した正真正銘、室町の辻が花である。

さて、ここからは時代が過ぎ桃山から慶長になると中国からまた新たな技術が伝わり、

「刺繍」が登場する、これが京縫いの始まりといっていい。

刺繍に摺箔、表現方法はより豊かになり大胆な構図へと発展していく。

<朱地綸子松梅桃山縫い 染帯>

ご覧の通りその迫力は美の最盛期である。

刺繍の魅力はその繊細な技術にあると以前も書いたが、

「渡し縫い」という技術は中世当時から能装束などに使われており、

そのふっくらした立体的な特徴は糸を柄の端から端までいっきに通し、

留糸で柄の形を描いているからで、当時の表現方法としては桃山文化の豊かで

大らかな背景が窺える代表的な最新技術なのである。

またこの独特な刺繍「渡し縫い」は後のジャガード織り、「唐織」で再現され、

昭和にはあらゆるものが量産されていくことになる。

因みに、この渡し縫いをここまで桃山に近づけられる手を持った職人は

なかなかいない、正に神業であることは間違いない。

 

 

 

 

 

筆 : 齋藤 康二