これはある資料から取り出した江戸中期頃の能装束、「松に白鷺文様縫箔」。
縫箔の装束には平織の生地を使い、浅葱地に肩から袖は青海波、腰には網、裾周りには唐花七宝が
金銀の摺箔で施され、上には白鷺、裾には浜松が慶長の名残を想わせる縫いで優美に表現されている。
また、この装束は”前田公爵伝来 第三八一ノ内”と明記された前田家と縁のある銘品の一領でもある。
今回はこの美麗な装束を訪問着として再生している最中でその一部をご紹介したい。
まず縫箔というと桃山から始まり江戸(慶長)まで、縫いと共に発展してきた所謂デザインの一つであり、
この装束もその流れを受け継ぎ、様々な摺箔に緻密な縫いが施されている。
一見単調に思えるデザインだが、上の装束をご覧いただくとおわかりのように摺箔には肩から裾にかけて
金と銀を使い分け絶妙な濃淡で変化をつけ、その色調に合わせて刺繍の色合いもまた変えているのがわかる。
着物というのは上は薄く、裾まわりはしっかりした色のバランスが良いとされているのが
この装束を見て納得いくのではないだろうか。
まだ我々の訪問着は未完成だが、その一部をお見せしよう。
これは剥落させた金銀摺箔に慶長の縫いで白鷺と浜松を表現している。
特徴としてはこの白鷺をご覧いただきたい、慶長特有の色調とデザイン化された形、
私は一目で惚れてしまった。