ぎをん齋藤
ぎをん齋藤

女将思い出語り

手許で保管すべき物

亡夫が遺した古裂蒐集の点数がおおよそ百点余り、その他の資料を合算すると二百点程となり、将来的に如何ようにするのが得策か…と、この一年間、私の頭の中はこの悩みでいっぱいでした。

存命中、主人は何とか染織歴史的に貴重であり、一貫性があるから分散する事なく、全て一括で美術館、又は染織学科のある大学等に寄贈する意思がありました。その理由の一つに古裂の現状維持の難しさがあって、色彩の褪色や繊維の劣化が必然的に伴うからです。私としては、このような問題点と故人の蒐集に対する情熱を考慮して、手許で保管することに決めて、西賀茂社屋の余地に湿度、遮光等の解決を優先した「収蔵庫」を建築する事を決めました。

その理由は、染織を志す後輩たちが自由に、間近で研究できる場所の提供は、将来的に染織業界に貢献できるものと信じ、故人の遺志が色濃く現存されるだろうと期待するところであります。

建物は、女性建築家・妹島和世氏の愛弟子で亡夫の大学後輩でもある周防貴之氏が、私の少ない予算にも関わらず快諾して下さいました。周防氏は唯今、大阪万博パビリオンのお仕事中ですが、多忙の合間をみて進めて下さるようで感謝の限りです。

古裂保管の方向性が決まり、私は安堵と共に、周防氏の構想が楽しみとなりました。

又、この七月、八月と二ヶ月間に渡り、この古裂と共に亡夫の作品が細見美術館にて展示され、何よりの供養となりました。