ぎをん齋藤
ぎをん齋藤

ブログ

長時間インタビュー体験談

NHKの海外向け番組「Core Kyoto」からのオファーで古裂の魅力について語る長時間インタビューを受けることになった。

 

何しろ初めての体験で、カメラを向けられた状態で質問に答えるのは容易では無い。さらに声帯が十分働かない健康状態で話をすること自体が辛い。

 

 

私が古裂を集め、現代のきものに生かそうとする理由を熱く語ると言うのが趣旨だが、問いに対して、うまい答えが、なかなか頭に浮かばない。

 

かれこれ小一時間インタビューを受けたが、終わった後ドーッと疲れが出た。後日、アトリエ(織物工房)で織物復元についても話さなければならないから、もう一度気合いを入れ直す必要がある。

 

私が40年間従事してきた「ぎをん齋藤」七代目当主としての仕事を纏めて映像に残す機会を得たことは、まことに幸運な事と受け止めている。

 

仕事だからという理由だけではなく古裂に対する愛着は人一倍強い。インタビューの最後に「齋藤さんにとって古裂とは一言でいうと何ですか?」という予想もしなかった問いに対して、私が選んだ言葉は「宝石のように輝いた物」と答えてしまった。もう少し気の利いた答えがあるだろうと反省しきりである。

今年の師走展

2017年の師走展も無事に終了した。大過もなく無事終了できたことを心より感謝申し上げます。

 

来場者も昨年ほどではないが120名を超える方が月末の忙しい中、銀座に足を運んでいただいた。

 

今年の特徴は月末、月初の開催となったため事前に京都に来て、お買上げいただく方が多かったこである。

 

また原糸の高騰から、やむを得ず来年に大幅値上がりする「唐織」の受注会としたことで多くの方から別注を受けることになった。

唐織は桃山時代、日本人が編み出した独自の織物である。江戸時代は能装束として利用されてきたものを近代になって帯として一世を風靡し、現在に至っている。

 

素材の「江州ダルマ」と呼ばれる手引き糸は「無形文化財」として貴重な技術認定されている。生産される糸の八割は三味線の糸として二割は帯として使われる。

 

手で作られた「江州ダルマ」は自然の太細があり、コシの強さが特徴である。このこだわりを引き継いでいるのは「齋藤織物」だけで当社の誇りとなっている。

 

体調管理が上手くいかず東京出張組は全員が風邪気味という最悪の状況であったが、全員がよく頑張ってくれた今年の師走展であった。

桃山時代にもあった上手と下手

私のコレクションの中にも「辻ヶ花」の上手と下手があることに気づいた。

画像① 「檜垣に藤菊文辻ヶ花染(桃山:16世紀)」

 

画像② 「扇面散らし文辻ヶ花染(桃山:16世紀)」

 

 

画像①は絞りがビッシリと密に施され隣り合う模様との境は狭く、絞りの輪郭が明瞭だが、②は模様が散漫で絞りの輪郭が甘い。

 

決定的な両者の違いはカチン(墨)で描かれた仕上げの線である。①は精緻でしかも何の躊躇もない線が力強く引かれているが②は線が稚拙で粗雑だ。

 

当時は身にまとう人の身分差があって上手物は上層階級へ、下手は庶民クラスへと目利きが選別していた。だが今の時代、この玉石が入り混じって市場に出回るから消費者自身が峻別する眼を持たないと下手物を高い値段で買う羽目になる。

 

とにかく先入観、肩書きを捨て無心に多くのものを観る以外に上達の方法はないのだが、よくできた偽物や本物なら中古品でも良いという消費者心理が寛容な昨今は選択肢が広がるだけにかえって難しい。